スーツは、季節によって服地も色目も変化します。今回は、春先にスーツをオシャレに着こなすに、春用スーツの選び方やコーデヒネートのヒント、スーツベストやスプリングコートについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
スーツは季節ごとに違いがある
日本は、四季の変化がはっきりとした風土ですので、スーツも季節によって違いがあります。大きくは春夏スーツと秋冬スーツに分かれ、どちらでもないニュートラルなスーツがオールシーズン物です。もう少し詳しく解説しましょう。
春夏スーツ
主に3〜9月に着用するものが、春夏スーツです。日差しがきつく、汗をかきやすい時期に着るものなので、秋冬スーツに比べて消耗の度合いも大きく、選ぶ観点が少し変わります。着用時の快適さやシワに強いなどの機能性が重要です。
しかし、やはり着る人を引き立てるおしゃれさも大切でしょう。
春夏スーツをスマートに着こなすためには、機能性とやデザイン性を併せ持ったものを選ぶ必要があります。
秋冬スーツ
主に10月から翌年2月にかけて着用するものが、秋冬スーツです。重ね着などでオシャレが楽しめる時期であり、その分、個性を表現できる時期とも言えるでしょう。
春夏スーツよりは消耗も少ないので、長く着る前提で購入されることが多いです。外側にコートを合わせたり、内側にベスト(ウエストコート)や二ット製品を合わせたりと、ファッション本来の醍醐味が味わえます。
オールシーズン
日本の四季全てに対応できるスーツは、厳密には難しいと言えますが、ある程度広い期間に着用可能なスーツは存在します。
10months(テンマンス)と呼ばれる素材によって、その名の通り真夏の2カ月を除く、10カ月間着用可能なスーツを実現できるのです。
肉厚としては、春夏ものと秋冬物の中間程度の厚みを持っています。どの季節に着ていてもおかしくない素材感や色目を持つテンマンス素材なら、オールシーズンと呼んでも差し支えないでしょう。
春用スーツの選び方
春用のスーツを選ぶときに大切なことを、ここで確認しておきましょう。春に向いているかどうかは、使用素材や仕立て方によって考える必要があります。
素材
春用に向いているスーツの素材を紹介します。クオリティは『ウール(羊毛)』『モヘア』『コットン(綿)』『リネン(麻)』などが、通気性に優れていて快適な素材です。
ウールであれば『サマーウール』と呼ばれる、服地の重量を表す『目付(めつけ:1平方メートルあたりのグラム数)』が220~240g程度のものが妥当です。それ以上重いと、冬物に近づいていきます。
モヘアというのはアンゴラヤギの毛で、春夏用服地の中でも高級素材です。光沢とハリとコシがあり、熱い時期でもひんやりとした快適な着用感があります。アフリカや南米などの熱帯地方で活動するビジネスパーソンの多くは、モヘア100%のスーツを好みます。
背抜き
上着の裏地の仕様に関しては、春夏用は『背抜き』、秋冬用は『総裏』が基本です。素材の特性や着用する用途によってはその逆もあり得ます。
また、昨今は夏のスーツ需要が減った分、オールシーズン志向でスーツを求める人も増えているため、春用服地に総裏で着用期間を長く設定する場合もあります。ただし、実際夏も着用する場合は、通気性が高い背抜きの方が快適なのは言うまでもないでしょう。
メンズスーツの着こなし術
メンズスーツの着こなしには、ある程度のルールや法則があります。もちろんそれを知ったうえで崩していくのも、またファッションです。これからスーツを着始める人のために、着こなし術を紹介しましょう。
ファーストスーツは王道で攻める
ファーストスーツ、すなわち人生で初めてのスーツは、王道的なものを選ぶのがよいでしょう。色目やデザイン、素材感などで奇をてらわず、ベーシックなものから始めようということです。
色目においては『ネイビー』がもっともスタンダードです。ネイビーは清潔感があり、誠実な雰囲気を持っています。
素材はウーステッドがおすすめです。梳毛(そもう)織物の一種で製織後に剪毛した服地を指します。毛足が短く目が詰まった、しっかりした服地です。
織り方は『綾織(綾織)』『平織(ひらおり)』『繻子織(しゅすおり)』『変り織(かわりおり)』などがあります。想定する季節が春寄りなら『綾織り』、夏も視野に入れるなら『平織り』が王道的な選び方です。
セカンドスーツはグレー系がおすすめ
2着目以降なら、おしゃれさや遊び心も取り入れやすい『グレー』系がおすすめです。グレーも大別してライトグレー・ミディアムグレー・チャコールグレーの3段階があり、実際はその間にも無数に存在します。
色目は『顔映り』や『顔映え』と呼ばれる、着るひとの顔の色との相性で決めればよいでしょう。ちなみに基準は顔の肌が健康的に見えるかどうかです。
グレーはVゾーン(上着の襟の内部の三角形部分)やシューズのコーディネートの選択肢も広がります。ネイビーのスーツで茶系の靴を合わそうとすると、ダークな茶色しか合いませんが、グレーのスーツは茶系で合わせられる濃淡の幅が広くなります。
インナーは白か春らしい色で
春用スーツのインナーであるドレスシャツの色目によって、スーツ自体の印象も違ってきます。春用を想定した場合は、どのようなインナーを選べばよいのでしょうか。
もっとも間違いがないのは白です。清潔感があってフォーマル性も高く、誠実・紳士な雰囲気が出ます。白以外でおすすめするとしたら、やはり春らしい淡い色目のものでしょう。
サックスブルーやベビーピンク、クリームイエローあたりの爽やかな色目は、周囲にウケがよいと考えられます。濃色の場合は、少しクセが強くなるのでおすすめとは言えません。
小物選びも重要
小物も全体のコーディネートの中で、センスのよさを表現するアイテムです。
上着の胸ポケットに挿す『ポケットチーフ』や『腕時計』『ベルト』『鞄』『ソックス』など、奇をてらう必要はまったくありません。シンプルで地味であっても、それなりのクオリティの物を選べば失敗は少ないと言えます。
シルバーグレーのシルクチーフをさりげなく胸ポケットに入れるとか、時計の革バンドと腰の革ベルト、鞄といった皮革製品の色合いや素材感がよく合っているかどうかなどが重要です。
たとえ安かったからと言って、下手に変わった色やデザインの小物を合わせると、せっかくの上質なスーツであっても全体の品格を落としかねないので注意しましょう。
春先に似合う大人のスーツコーデ例
春先にはスーツを大人らしく着こなしたいですね。コーディネート次第で爽やかにも、野暮ったくもなるのがスーツファッションというものです。コーディネートの参考に、いくつか例を挙げていきましょう。
紳士な男のチェック柄英国風スーツ
英国のクラシックテイストとチェック柄という、ふたつのトレンドがクロスする英国風のチェック柄スーツは、旬でもありクラシカルでもあるおしゃれなスーツです。
大きい窓枠(windowpane)のようなチェック柄の『ウインドウペイン』は、伝統的な英国テイストが強い柄であり、個性的な印象を与えます。2000年前後に『ポールスミス』『リチャードジェイムス』などの英国のデザイナーブランドが流行させました。
ほかにも英国らしいものとして、グレン(グレナカート)チェックやハウンドトゥースチェック(千鳥格子)、ガンクラブチェック、タータンチェックなど多くの種類があります。
ネイビーベースにパープルで描かれたウィンドウペイン柄スーツに、ベビーピンクのドレスシャツ、ワインカラーベースにピンクのコインドッツ(コイン大の水玉柄)のネクタイ、サックスブルーのポケットチーフ、足元はブラックのウィングチップなどはいかがでしょうか。
シルエットを美しく魅せるクラシコイタリアスーツ
クラシコイタリア系のスーツは『サルトリア』と呼ばれるイタリアの仕立職人の、おしゃれな服へのこだわりが詰まった服です。背広のルーツである英国サヴィルローのビスポーク(注文服)が原点であり、イタリア人の感性で粋で伊達な服に落とし込まれています。
身体に絶妙にフィットしながらも、とても動きやすく、シルエットを美しく魅せるスーツとしての評価が高い服です。色目も英国調とはひと味違って、イタリア独特のアクのある色目が多く、好みがわかれるところですが、現代的なカッコよさを持つ服であると言えるでしょう。
ベージュ系の無地のクラシコイタリアスーツに、オフホワイトで襟芯のないソフト感があるドレスシャツ、ダークブラウンベースのペイズリー柄ネクタイ、白い麻のポケットチーフ、足元はアンティーク仕上げのミディアムブラウンのストレートチップなどはいかがでしょうか。
春らしい色づかいに合うスリーピーススーツ
一昔前はあまり着るひとがいなかったスリーピースが、近年注目を浴びています。英国調やクラシックなどのキーワードから、ごく自然に結びつくアイテムです。
春先に着るスリーピースは、インナーのドレスシャツとネクタイに春らしい爽やかな色目を持ってくると、スーツのダークカラーとの対比によって垢抜けて映ります。
ミディアムグレー無地のスリーピースにクリームイエローのクレリックシャツ(襟とカフスが白無地に切り替えられているシャツ)、淡いラベンダーのソリッド(無地)ネクタイ、シルバーグレーのポケットチーフ、足元はライトブラウンのユーチップなどはいかがでしょうか。
スマートに魅せるスーツベスト
男をスマートに魅せる、オシャレなアイテムこそスーツベストです。最近はドラマや映画でもスーツベストをカッコよく着こなす俳優をよく目にします。
スーツベストとは?
スーツベストは、素材感や色調も含めて、スーツの着用に合うベストを指します。ニットベストやカジュアルベストとは異なるものです。
光沢のある素材感やクールな表面感、無彩色であるブラックもしくはグレーの濃淡といった色目、柄は無地か織り柄程度というスーツとの親和性が高いドレッシーなベストがスーツベストと言えます。
ミディアムグレーの無地のスーツベストがあれば、ほとんどのスーツの中に着用しても違和感がないでしょう。汎用性が高いスーツベストを、ぜひ一度試してみてください。
春用ベストの選び方
春用のベスト選びで気をつけたいのは、素材感や色調が重くならないようにすることです。春用スーツの素材感や、周りの人たちの着ているものの素材感も軽めになっていく時期のため、重いイメージのベストは避けましょう。
さらっとした素材感で色目もミディアムないしライトグレーなら季節感ともマッチし、スーツとも合います。
派手過ぎない程度のチェック柄ベストも悪くない選択肢でしょう。無地のスーツの場合にはアクセントになりますし、きれい目カジュアルのときでも使えます。
オシャレな印象が高まるコーデ術
スーツベストを使って、オシャレな印象をアップするコーディネートに挑戦してみましょう。
シックに攻めるならワントーンコーデです。たとえば、チャコールグレーのスーツにミディアムグレーのベスト、シャツはライトグレーでシルバーグレーのネクタイというグラデーションです。『トム・フォード』や『アルマーニ』が使うテクニックでもあります。
ドレスダウンしたジャケパンスタイルでベストを使うのも良いでしょう。ジャケットとパンツをつなぐようなイメージで、色柄を選択するのもおすすめです。
チャコールグレーで、グレンチェック系の柄のジャケットとライトベージュのコットンパンツをつなぐように、ミディアムベージュでウィンドウペインチェックのベストを合わせるようなイメージです。
いろいろと自分で工夫して着こなしてみるのも、スーツベストの楽しみ方の一つでしょう。
春上着の定番スプリングコート
春は一日の中でも寒暖差が激しい日が多い季節です。日中は暖かくても朝夕の通勤時などは肌寒いこともあります。
そんな時期にはスプリングコートが役に立つでしょう。ファッションアイテムとしても、あるとないとではコーディネートの幅が変わるので、1着は欲しいものです。
スプリングコートとは?
スプリングコートは、冬に着るコートとは異なり、春の肌寒い時期に羽織る薄手のコートです。冬のコートの防寒に対して、調節程度の感覚で着用するものであり、素材はウールよりもコットンやシルク、ポリエステルやナイロンなどが使われます。
色合いも春用スーツの上に着るので、アイボリーや明るめのベージュ、アイスグレー、ダークでもネイビーのように爽やかめなダークがおすすめです。
いつからいつまで着れる?
スプリングコートが着れる時期は、3〜4月のわずか2ヶ月程度です。入学式やお花見の季節は、春物を着ていても朝夕は少し肌寒い日が続きます。
そういった時期に羽織り、日中に暖かくなればコートは脱いで手に持ち、夕暮れどきの冷え込みに応じてまた羽織るといった使い方です。
スプリングコートの選び方
では実際に、どのようなスプリングコートを選べばよいのでしょうか。
デザイン面に着目すると、ステンカラータイプとトレンチコートタイプの2種類が基本形です。トレンチにはシングルとダブルがあります。
持っているスーツに馴染む色目、デザイン、素材感で選ぶのも目安ですが、実はスーツとコートの相性はさほど気にしなくても大丈夫です。むしろ自分自身の背格好や相性、顔映りで決めることが大切です。
一度購入すると長く着るアイテムのため、素材が丈夫であり、縫製もしっかりしたものを選びましょう。
スプリングコートの代表的なブランド
スプリングコートには、オーセンティックな長い歴史を持つブランドが3つあります。それぞれを紹介していきましょう。
一流コートの代名詞アクアスキュータム
英国・ロンドン、リージェント通りで1851年に創業された老舗ブランドです。アクアは水、スキュータムは盾でアクアスキュータムとは水から守る『防水』の意味です。
第一次世界大戦では、同社のトレンチコートが塹壕(trench)戦を戦う兵士に支給されました。また、名作映画『カサブランカ』でハンフリー・ボガートが着用していたのが同社のトレンチコートです。
現行の同社のトレンチコートのデザインが、100年前とさほど変わっていないのは驚きでしょう。必要に迫られて進化した機能美が、平和な時代にダンディズムとして男性 の心をくすぐるのでしょう。
圧倒的人気を誇るバーバリー
創業者トーマス・バーバリーは、きつい織目で丈夫な服地『ギャバジン』の考案者でもあります。また、アクアスキュータムと並んで英国軍にコートを支給していたのがバーバリーです。
2社とも英国王室御用達という点でも共通していますが、特にバーバリーは、紳士服のドレスファッションを包括するブランドであり、日本にもコアなファンが多くいます。
バーバリーチェックも有名で、英国トラディショナルといえばバーバリーを連想するひとも多いのではないでしょうか。バーバリーのトレンチコートとステンカラーコートは深い伝統が織り込まれたアイテムです。
ミドル層に支持されるマッキントッシュ
マッキントッシュといえば『ゴム引き』の防水生地がなによりも有名です。1823年にチャールズ・マッキントッシュは、特殊なゴムを張り合わせた完璧な防水生地を作り出しました。
それは当時、奇跡的な発明だったのです。その生地はレインコートに最適の素材として広まりました。バーバリーのコートもアクアスキュータムのコートも、彼の発明なくしては存在しなかったと言われています。
現在のマッキントッシュブランドは、伝統を引き継ぎつつも洗練されたトラディショナルテイストのコートを展開しています。
まとめ
春用スーツと着こなしの基本情報を紹介してきましたがいかがでしょうか。
使用素材は通気性が感じられる、快適で色目も爽やかなものを選ぶと間違いありません。ここで紹介した着こなしのヒントや、スーツベスト、スプリングコートの情報なども参考にして、オシャレなコーデを試してみましょう。